今年も残すところ僅かとなりました。
弊社社長、石川靖。スタッフ橋本からご挨拶申し上げます。
幻の書
フランス人作家レオポール・ショヴォの童話「年を歴た鰐の話」という作品は作家の山本夏彦が翻訳した彼の処女出版であり、その訳を坂口安吾が激賞したという。
昭和16年、桜井書店の桜井均社長が山本の訳に惚れ込み、印税の前払いをしてまで刊行された。山本の文名が高まるにつれ、あちこちから再版の申し込みが来たらしいが、山本はその依頼を断り続けたそうだ。桜井書店版は絶版となり、今ではなかなか手に入らない「幻の書」となった。
戦後、桜井書店は倒産したが、山本はこの小さな出版社の名前を残したいがために、常に自分の本の巻末の著訳者目録には「『年を歴た鰐の話』絶版 桜井書店」と記したという。
山本の死後、この本は文藝春秋社から復刻され、今では誰でも2100円払えば手に入れて読むことができる。しかし山本と桜井の気持ちを考えたなら、この本は復刻などされずに永遠に「幻の書」であった方がよかったのかもしれない、と思うのは私だけだろうか。
長年本作りをしていて感じることは、書き手と作り手、お互いが気持ちを理解し、人格を尊重しあわないと納得のいくものは出来ないということ。それが「ものづくり」の原点なのではないかと思う。
作家との間、お客さんとの間に山本と桜井とのような人間関係が築けたら私はどんなに幸せだろう。そして今の時代、このようなことが一番大切なのではないかとも思う。
来年も心を込めてものをつくり、心を込めて企画展を開催したい。
石川 靖
群馬が一番!
群馬県をアピールするのは難しいと感じることが多々あります。
県外・海外の友達に観光案内する時や、歴史博物館のミュージアムショップでの商品選びなど、たくさん誇るべきものがあるのですが、キラリと光る口説き文句が出てきません。
個人的に友達が群馬に来てくれる時はできる限りの案内をしますので、はじめは来群を渋っていた友達もリピーターになって「東京に行くから、ちょっと寄るよ」「日本にいくから群馬に行くよ」と、わざわざ足をのばしてくれます。群馬の作家の作品をプレゼントした友達は喜んで生活に取り入れてくれます。友達ならそのような草の根勧誘もできますが、不特定多数の方に注目してもらうにはどうしたらいいのでしょう。模索の日々です。
イタリアでは、スローフードや芸術・文化の知識が誰にでも豊富にあるということではないようです。しかし、意識せずとも多くの人がスローフードを実践し、旧アッピア街道の石畳をそのまま車が行き交い、待ち合わせは町の教会のカラヴァッジョの絵の前、日曜はローマ遺跡で無料のコンサートがあるから行ってみよう…と、やはり外からみればそこは食と歴史・文化の王国なのです。そして、彼らは外国の食事や文化をそれほど知っている訳ではないのに必ず「イタリアが一番さ!決まっているだろ」と言います。そのような身近な環境を愛する気持ちが積もって「観光大国」「イタリア製品は素晴らしい」という外国からの評価に繋がっているのではないかと感じます。
他を知らないから一番とは言い切れない…日本人の謙虚さは美徳ではありますが、家族や友達を「あなたが一番!」と言って大切にすることも素敵なことだと思います。同じように、たくさんの人が群馬の歴史や美味しい食品、工芸品、身近な作家の作品などに触れて「これが一番だよ」と言ってくれたら、その物・人達の評価や活躍の場が広がっていくのではないかと思います。
これから地方の時代がくる…そんなことも言われています。上手な口説き文句はまだ修行中ですが、まずは愛情を持って作品や商品に接してみる…そのようなことを考えた一年でした。
橋本 恵
今を生きる
今年一年も数日で終わります。一日一日繰り返される時間の集積をどのように考えるか。生活すること。生きるとはどういうことか・・・問い続けた一年でもありました。日常の習慣に自分の存在を貼り付け、肉体に支障がないように精神面のバランスをうまく微調整して、あくまでも本来の自分の姿でいられるよう、自然体で、過ごしてきた一年です。
ノイエスギャラリーのこの1年は、20企画、7貸し画廊を実施しました。多くの作家の方々と作品について、生活について、生き方について・・・と楽しく充実した時間を過ごしました。ノイエスにご来廊していただいた多くの方々も、きっと私と同じように時間を共有して下さったと願っています。
人との出会いは不思議なものです。
何十年とつき合ってきても相手の事がほとんど理解出来ない・・・。
数年のつき合いなのに肉親のようなつき合いが出来る・・・。
血のつながりがなくても日々の生活の中で心から信頼出来る関係はすばらしいものです。そんな人とのつき合い方を今後もしていきたいと思います。そして、ノイエス朝日は、絵画、彫刻、工芸、その他の作品を通して作家との交流の場として呼吸をしていき、さらに文学や生活(衣食住)なども取り込んでいきたいと考えています。
多くの方々との出会いの場として、作品との出合いの場として、知識との出合いの場としてコミュニケーションハウスの機能を果たしてしていきたいと思います。
2010年のノイエス朝日の展覧会もほぼ九割がた決まっています。
皆様に出会いの場として楽しんでいただけるよう、これから時間をかけて企画自体を詰めていき、発酵させ、心にも身体にも充分しみわたるような展覧会と講演会と音楽会や詩の朗読などの幅広い企画をしていくつもりでおりますので是非、お出かけ下さい。
一歩、踏み出す。何事にも一歩踏み出す。年齢を重ねれば重ねる程この一歩踏み出す行為を忘れずに今を生きる。その姿勢を持ち続けることで若くもいられ、生活にはりをもち、前向きに、もの事を考えられると思うのですが・・・。踏み出せず、休止状態も時には必要です。あまり長く休止状態が続くようであれば、環境を変え、人との交流で小さな光が見えてくることもあります。人の存在や言葉がどんなに大きいものであるか実感出来ます。今を生きるには自分に正直に一歩を踏み出すことを忘れないことだと思います。
武藤貴代
